保江邦夫の
保江邦夫による
保江邦夫のための
方程式美術館
1995年夏、朝日新聞大阪本社科学部の女性デスク(当時・・・今は東京本社科学エディター)が、一般紙としてはかなり大胆な試みとして、量子力学のシュレーディンガー方程式

そのものを図版扱いで掲載した(しかも、贅沢なカラー印刷だ!)。
記者の中には、一般紙の読者には方程式の名前とか役割の説明で充分であり、あえて方程式の形までも具体的に載せる必要はないという反対意見も多かったそうだが、新進気鋭のデスクは信念を貫いた。いわく、絵画と同じ扱いでやれるはずだ。
この一言で、おそらく世界で初めて、一般紙の読者の目に

が映ることになった。
なるほど、これは面白いアイデアにちがいない。
ゴーギャンやマチス、それに最近急に売れるようになったフェルメールなど、有名な画家の絵を飾った美術館を訪れる人達の多くは、決して油絵の技法や微妙な絵の具の調合による光沢の理論について熟知しているわけではない。むろん、そんな人も希には来るだろうが、そのような特別な人は画家自身を含めた絵画の専門家にちがいない。
むしろ、ほとんどの人は、ただ感性で鑑賞することのできる対象を求めて、美術館の門をくぐるはずだ。大事なのは、きれいな絵だとか、印象的な絵だとか、灰汁の強い画風だなどといったことになる。
誰でも自分自身の感性のおもむくまま、自由に眺め、楽しむことができる。それが一般の人達に絵画がこよなく愛される理由なのかもしれない。(嘘だと思ったら、美術館を訪れる人全員に問題用紙を配って、展示中の絵画についての美術理論を根ほり葉ほり問いただしてみればよい。次の週には閑古鳥が鳴いているはずだ。)
額に納められた一枚の絵の前に何時間も立ち尽くし、ゆったりとした時の流れを味わっている老紳士が一人でもいれば、その絵の存在理由は満たされているのだ。
これまでは、定義や計算方法を熟知した数学者や物理学者だけが見入ってきた方程式だが、ひょっとすると絵画と同じような扱いをしさえすれば、方程式など目にすることのなかった一般の人達にも開放することができるのではないだろうか。
方程式を感性で鑑賞する対象とし、きれいな方程式だとか、冷たい方程式だとか、あるいは目の覚める方程式に出会ったとかいいながら楽しむのも一興。
美術館ならぬ算術館の誕生だ。
若者の理科離れ、数学離れが叫ばれているいまの時代、邪道かもしれないが、せめて感性に訴えるのも悪くはない。どんな形にせよ、若者の目に止まらなければ始まらないではないか。僕だって、面白半分にUFOと宇宙人を研究しようと思ったからこそ、大学は天文学科に行く気になったのだ。
というわけで、僕はいつもの独断と偏見だけを頼りに、方程式の美術館を始めようと思う。
お代は見てのお帰りだよ!
シュレーディンガー方程式
E. Shroedinger 発見 1926 年
クライン-ゴルドン方程式
E. Shroedinger 発見 1925 年
ディラック方程式
P. A. M. Dirac 発見 1928 年
変分方程式
W. R. Hamilton 発見 1834 
測地線方程式
A. Einstein 発見 1915 年
アインシュタイン方程式
A. Einstein 発見 1915 年
未完成
制作著作=保江邦夫(2007年)
ここがどん底です